大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高松高等裁判所 昭和57年(ラ)24号 決定

抗告人

新田俊雄

右代理人

土山幸三郎

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一本件抗告の趣旨及び理由は、別紙記載のとおりである。

二一件記録によると、松山地方裁判所今治支部は、債権者株式会社箱助木材センターの申請に基づき、昭和五七年一月二五日付で、債務者斧進所有の別紙物件目録記載の本件不動産につき仮差押する旨の本件仮差押決定をし、同裁判所書記官の嘱託に基づき、松山地方法務局今治支局昭和五七年一月二五日受付第一六三六号により本件不動産に仮差押の登記がなされたところ、抗告人は、同年四月二六日、債務者から本件不動産を買受け、同年五月四日、その旨所有権移転登記手続を経由し、これよりさきの同年同月一日、本件仮差押決定に定められているところのいわゆる仮差押解放金額三九五万五四七〇円を松山地方法務局今治支局あてに供託し受理されたので、原審裁判所へ本件仮差押決定の執行の取消しを求めるに至つたことが認められる。

ところで、民事訴訟法第七四三条に規定する債務者より供託すべき金額(いわゆる仮差押解放金)は、仮差押の目的物に代わるものではあるが、仮差押債権者に優先弁済を受ける権利を取得させるものではない。したがつて、仮に、第三者による仮差押解放金の供託を許容すると、仮差押債権者が債務者に対し債務名義を得ても、第三者が供託所に対し有する供託金返還請求権に強制執行をすることができないうえに、債務者が仮差押執行の取消しにより仮差押目的物件を自由に処分し、債務者からも権利の満足を得られない危険を招来し、仮差押制度の趣旨に反することになるものというべきである。それゆえ、第三者による仮差押解放金の供託は許されないものと解すべきであり、したがつて、第三者である抗告人が本件仮差押解放金を供託したとしても、それは法律上許されないものであるから、抗告人がなした本件仮差押執行の取消しの申立ては、民事執行法第一七九条第一項に照らして不適法であり却下を免れない。

三よつて、抗告人の申立てを却下した原決定は、結論において相当であるから、本件抗告を棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(菊地博 滝口功 川波利明)

物件目録〈省略〉

〔抗告の趣旨〕

一 原決定を取消す。

二 債権者株式会社箱助木材センター、債務者斧進間における松山地方裁判所今治支部昭和五七年(ヨ)第四号不動産仮差押申請事件について、別紙目録記載の不動産に対してなされた仮差押の執行を取消す。

との裁判を求める。

〔抗告の理由〕

申立人の申立の原因は、原決定理由欄記載のとおりである。

仮差押解放金は、正当なる理由がある場合には、第三者においてもこれを供託しうると解すべきである。本件においては、申立人は、債務者から目的物件の譲渡を受けた者であつて、右譲渡自体は有効であり、かつ、これを仮差押債権者に対抗し得ないのであるから、仮差押の存在は、みずからの取得物件上の障害になる。

したがつて、右障害を排除するためにも、供託をなす正当なる理由を具備しており、かつ、現実に供託は受理されている。

一方、仮差押債権者は、右供託金をもつて仮差押の目的を達することができるのであるから、仮差押の執行が取消されても、何ら保全の目的を害されることはない。

だとすれば、申立人については、民事訴訟法第七五四条第一項の執行取消申立権を有するか、すくなくとも、同条を準用することができると解すべきである。

にもかかわらず、申立人には同条の申立権がないとした原決定は、同条の趣旨を余りにも文言通り厳格解釈したものであつて、相当でないから、違法として取消されるべきである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例